中小企業庁から令和6年度補正予算・令和7年度当初予算関連として各種中小企業対策がリリースされています。中でも注目すべきは「新規事業進出補助金」です。これは、単に新規事業を始めるための資金援助ではなく、企業が新たな市場に進出し、持続可能な成長を遂げるための支援を目的としています。
新規事業とは、単に「新しいことを始める」ことではなく、自社の強みを活かしながら、新たな市場で価値を創造することです。しかし、多くの企業が「補助金があるから新規事業をやる」という発想に陥りがちです。この補助金の本質を理解し、戦略的に活用することが重要です。
国が「新規事業進出補助金」を推進する背景と目的
「新規事業進出補助金」は、単なる事業支援ではなく、日本経済全体の成長戦略の一環として設計されていると推測します。
■以前の補助金施策との違い
特に、業再構築補助金はコロナ禍での救済策として注目され、多くの企業が活用しました。しかし、事業再構築補助金には以下のような課題がありました。
・要件が複雑で、申請のハードルが高かった
・申請企業の中には「補助金をもらうための新規事業」が多く、本当に市場に根付く事業が少なかった
・採択されたものの、実行に移せない企業も一定数存在した
こうした課題を踏まえ、「新規事業進出補助金」では、より現実的で実現可能な新規事業を支援することに重点が置かれていると考えます。
■新規事業進出補助金の狙い
・持続可能な成長を支援する
・企業が単発の資金補助ではなく、長期的な事業展開を考えられるように設計されている
・収益納付が不要な点も、企業が成長しやすい環境を整える意図がある
・地域経済の活性化を促進する
・地方の中小企業が新規事業を起こしやすくすることで、地域経済の循環を促す
・事業再構築補助金では見えにくかった「地方発の成長モデル」を強化する狙い
・イノベーションを後押しする
・企業が新規事業を通じて、新たな市場や業態を生み出せるようにする
・研究開発型ではなく、既存の企業が実行可能な新規事業を支援する方針
新規事業はなぜ難しいのか?
新規事業は単なるアイデアや資金だけでは成功しません。特に中小企業にとって、新規事業には以下のようなハードルが存在します。
■既存事業とのバランス
新規事業を立ち上げる際、既存事業とのバランスが大きな課題となります。企業が安定的な収益を上げている既存事業に重きを置きすぎると、新規事業に投資する時間や資源が削られがちです。一方、新規事業に過度にリソースを割くと、既存事業の安定性が損なわれるリスクもあります。特に中小企業では、限られたリソースの中でどこに重点を置くかの判断が非常に難しいのです。
■経営資源の不足
新規事業には、資金・人材・時間の3つの資源が不可欠です。しかし中小企業の場合、これらのリソースが潤沢であることはほとんどありません。新しい市場やビジネスモデルを試すには試行錯誤が必要ですが、その試行錯誤のための時間が確保できないケースが多いのです。また、新規事業には適した専門知識やスキルを持つ人材が求められますが、すぐに確保できるとは限りません。
■組織文化とマインドセット
新規事業が成功するかどうかは、企業の組織文化とマインドセットにも大きく左右されます。新しい挑戦を受け入れ、変化を前向きに捉える企業風土がある企業は、新規事業の成功確率が高まります。しかし、「今までのやり方でうまくいっている」という固定観念が強い企業では、新しいビジネスを推進する際に社内の抵抗が生まれやすくなります。特に、失敗を許容しない文化が根付いていると、社員が挑戦を避けるようになり、新規事業がうまく立ち上がらないことが多いのです。
■市場ニーズの不確実性
新規事業は、市場に受け入れられるかどうかが未知数です。事前に市場調査を行ったとしても、実際に顧客がどのように反応するかは蓋を開けてみなければわからないのが現実です。特に、これまでとは異なるターゲット市場に参入する場合、想定した需要と実際の需要がずれるリスクが高く、収益化までに時間がかかることも珍しくありません。
こうした課題を乗り越えるには、「両利き経営」の視点が不可欠です。
両利き経営とは?
両利き経営とは、「深化」と「探索」を両立する経営手法です。
深化とは、既存事業の強みを活かし、効率化や改善を進める。
探索とは、新規事業や新たなビジネスモデルに挑戦する。という意味を持ちます。
企業経営において、短期的な利益を確保するためには深化が欠かせません。これは、既存の強みを活かし、より効率的に市場での競争力を高める活動です。しかし、深化だけに集中してしまうと、環境変化に対応できず、長期的な成長が困難になります。
一方で、探索は未来の成長機会を見出すための活動です。新規事業の創出や新たな市場の開拓には、リスクが伴うものの、企業が生き残り、発展していくためには必要不可欠な要素です。
特に中小企業においては、「深化と探索のバランスをどのように取るか」が鍵となります。既存の事業基盤を守りながら、いかに新しいチャレンジを組み込んでいくか。その一助となるのが「補助金」の活用です。
補助金を活用することで、企業は探索に伴うリスクを軽減しつつ、新規事業に挑戦する余力を持つことができます。これにより、「深化と探索の両立」を実現し、持続可能な成長への道を切り拓くことが可能になります。
補助金をどう活用すべきか?
補助金は単なる資金援助ではなく、新規事業の成長を加速させるツールとして活用すべきです。
■補助金を活用すべき3つの視点
・補助金は「探索」のために使う→ 既存事業の補完ではなく、新たな市場開拓やビジネスモデル構築に充てる。
・補助金の活用は「なぜやるか?」を明確にする→ 「補助金があるからやる」ではなく、「事業の成長のために必要だから活用する」
・補助金終了後も持続可能なビジネスモデルを構築する→ 補助金がなくても収益が成り立つような計画を立てる
ちなみに、今回の「新規事業進出補助金」は収益納付が求められません。 通常、補助金を活用して事業が成功し、一定の利益が発生すると、補助金の一部を国へ納付する「収益納付」の仕組みが適用されます。しかし、この補助金では補助金を超える利益が出ても、返還の義務がありません。
これは、企業がより自由に補助金を活用し、収益の再投資がしやすい仕組みとなっているため、成長を目指す企業にとって大きなメリットといえます。
弊社、ビジネスストーリーのスタンス
ビジネスストーリーでは、事業者様の新規事業確立に共に悩み、共に考え、共に進むというスタンスで伴走支援を致します。
新規事業は、一朝一夕で成功するものではありません。しかし、戦略的に補助金を活用し、既存の強みを活かしながら市場に適応することで、持続的な成長が可能になります。
次回は、ビジネスストーリーの補助金に対する方針をアップします。