Column
雑記
1日参りと松の教え-経営者の誇り
2025.02.01

冷たい空気が吐く息を白くさせる。今朝は恒例の氏神様の1日参りだ。手水の冷たさに一瞬たじろぐも、その冷たさが眠気を洗い流し、意識が冴えていく。社務所のお母さんに挨拶をし、本殿で手を合わせる。毎月1日は、先月をリセットし、今日からの新たなスタートに気持ちを切り替える絶好の機会だ。株式会社ビジネスストーリーにとっても、欠かせない大切な儀式である。

そして、毎月楽しみにしているのが、掲示板に張り出される『今月の言葉』だ。その言葉の意味を深く掘り下げ、経営になぞらえて文章にしたためたいと思う。

今月の言葉

『降り積もる深雪に耐えて色変えぬ 松ぞ雄々しき 人もかくあれ』

これは、昭和天皇が終戦の翌年に「松上雪」と題して詠まれた御製(和歌)である。戦時中の苦労が雪のように降り積もり、それでも敗戦の悲痛に耐え、国土を復興させようと立ち向かう人々の姿を、緑豊かで力強いたくましい松になぞらえ、国民を励まされた歌だという。

この御製(和歌)に詠まれた「松」は、単なる樹木ではない。「どれほど厳しい状況に置かれても、決して色を変えずに耐え抜く強さ」を象徴している。

松は、日本の歴史の中で「永続」「不変」「力強さ」の象徴とされてきた。大地にしっかりと根を張り、風雪に耐え、四季を通じて緑を保つ。その姿は、まさに逆境に屈せず、未来へと進む人々の精神を映し出している。

昭和天皇がこの歌を詠まれたのは、終戦の翌年。戦禍に苦しみ、打ちひしがれた日本が、そこから再び立ち上がることを願い、人々の心に希望の灯をともすためだったのではないか。深雪に埋もれても色を変えぬ松のように、「どんな困難に直面しても、誇りを持ち続けよ」という強いメッセージが込められている。

経営における「誇りを持ち続ける」こと

企業経営においても、試練は必ず訪れる。売上の低迷、資金繰りの困難、人材不足、取引先の倒産…まるで深雪のように積み重なり、経営者の心を重くすることがある。しかし、ここで問われるのは、逆境に立たされたときの「心のあり方」ではないだろうか。

経営者が厳しい局面に直面したとき、ただ嵐が過ぎ去るのを待つのではなく、自らの「信念」や「誇り」を持ち続けることができるか。それこそが、企業の存続を左右する重要な要素となる。

松のように「色を変えずに耐え抜く」ということは、決して頑なに現状を維持することではない。むしろ、変わらぬ信念を持ちながら、状況に応じて柔軟に対応する力を持つことが大切だ。時には戦略の転換を迫られることもある。ビジネスモデルを再構築する必要があるかもしれない。しかし、どんな変化の中にあっても、「自分の経営理念や会社の存在意義だけは決して揺るがせてはならない」。

例えば、長年続いた事業が市場の変化によって苦境に立たされたとしよう。そのとき、ただ「昔のやり方が正しい」と固執すれば、事業は衰退する。しかし、「なぜこの事業を続けるのか」「顧客にどんな価値を届けたいのか」という根本の想いを忘れなければ、新たな形で事業を再構築する道が開ける。

松は、雪の重みで枝をしならせながらも、決して幹を折らない。その姿のように、「環境に適応する柔軟さ」と「揺るぎない誇り」を両立させることが、経営者としての在り方なのだろう。

また、経営者だけでなく、企業を支える従業員もまた、松のような強さを持つことが重要だ。経営者が社員を信じ、彼らにとっての「誇り」となるビジョンを示せるかどうか。それが、組織全体の士気を左右する。

「誇り」とは、単なる自己満足ではない。「自分たちの仕事が、誰かの役に立ち、社会に貢献している」という実感こそが、真の誇りである。厳しい時期こそ、経営者は従業員とともに、企業の存在意義を見つめ直し、信念を貫く勇気を持つことが求められる。深雪に耐えながら、松が変わらぬ緑を保つように。

企業もまた、困難の中でこそ、その本質が問われる。 そして、変わらぬ誇りを持ち続ける者だけが、未来へと続く道を切り拓くことができるのではないだろうか。

企業にとって、試練は避けられない。しかし、試練に押し流されるのではなく、それを耐え抜きながらも「色を変えず」に進むことで、強い根を張ることができる。

1日参りからそう考えた土曜の午後だ。