これはコラムじゃありません。
たぶん仕事の話でも、そうでない話でもない。
今日はノープランの休日。
家でもなく、仕事先でもなく、ちょっと駅前のカフェに来てみた。
予定もない。タスクもない。
あるのは、コーヒーの香りと、少しのぼんやりとした時間。
でも、そんな時間の中でふと思う。
こんなふうに、自分の「何もしなさ」と向き合える場所って、けっこう貴重だなって。
自分の世界に入り込んで、自分の妄想に勝手にワクワクしていた。
そんなときだった。
カフェの入口に、白杖を手にした男性が立っているのが見えた。
年齢は60歳くらいだろうか。おしゃれなジャケットを羽織っていて、歩き方は少し危なっかしかった。
その姿を見た女性スタッフさんが、何の迷いもなく手を止め、すっと近づいていった。
自動ドアを開けて、声をかけて、その方の手を自然に取り、案内したのは注文カウンターではなく、すぐ近くの席。
手を取り、声をかけながら、椅子へと誘導していた。
何やら少し会話があり、男性はにこやかにうなずいて、お代をその場で支払った。
注文の品は、スタッフさんが席まで直接運び、テーブルにそっと置いていた。
その一連の所作が、ほんとうに美しく、気持ちが全面に出ていた。
全くマニュアル感もなく、「安心してください。大丈夫ですよ。」と聞こえてきそうな空気感だった。
そのシーンを一部始終見ていたぼくは、なんだかいい映画を観た気分になった。
思わず、こみ上げてくるものがあった。
そして、ふと思った。
接客って、もしかすると「多様性を包み込むやさしさ」なのかもしれない。
近年よく言われる「マニュアル」「効率」「均一なサービス」。
それはもちろん大切な視点だけれど、人が人に関わるとき、マニュアルだけで足りるはずがない。
属人性と言われることもあるけれど、その人にしかできない応対が、誰かの1日を温かくすることもある。
きっとこのスタッフさんには、「自分がどう見られるか」とか「会社の評価は」とか、そういうものはどうでもよくて、
ただ、目の前の人の不安や緊張をほどくことに集中していたんだと思う。
ぼくは、そこにプロフェッショナルを感じた。
「あの人、素敵だったな」と思える接客。
無意識のうちに、また来たいなと思える場所。
そんなふうにして「お店のファン」は育っていくのかもしれない。
男性が帰り支度をしているとき、別のスタッフさんがそれに気づいて、さっと近づいて声をかけ、手を取り出口へと案内していた。
なんだか、組織の文化ってこうやって育まれていくのかもしれないと思った。
カフェでぼんやりするはずだった休日が、
仕事の本質を思い出させてくれる時間になるとは思わなかったけど。
こんな休日の道草も、悪くないなと思った。